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グローカルナ視点で地域づくり活動を支援する Furusato Mirai

地域づくり黎明期report

和歌山県田辺市上秋津地区の概要

和歌山県の市町村図 上秋津地区がある和歌山県田辺市は、県のほぼ中央部に位置し、周りは紀伊山地に囲まれ、旧田辺市内の東を流れる右・左会津川河口付近に市街地が形成されています。気象条件は、年間平均気温16.5℃前後、降水量は1,650ミリの温暖な気候に恵まれている。平成17年の合併により、総面積1,026.77km2を誇る近畿最大の市となった。
 上秋津地区は、市内の西に位置し、総面積は1,297haで、そのうち農用地面積は364.6haという市街地から約5Kmに位置し、3方を山とミカン畑に囲まれた地区であります。農業形態は、柑橘と梅の複合経営で、特に柑橘においては多品目の周年収穫体制などいち早く整えた果樹栽培の活発な地区であります。

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古くから地域づくりの盛んな地域

田辺市と牟婁町の地図 もともと上秋津村であった地域は古くから地域づくりの盛んな地域でありました。昭和30年代はじめ、国が強く押し進めた昭和の大合併(上秋津に隣接する6村合併で西牟町に)に伴い、上秋津村の村民財産所処分問題が持ち上がり、2年にわたる激しい住民の議論の末、村有財産は村民に分配せず、今後、そこから得られた利益は地域全体の公益のためだけに使うことが決定され、昭和32年、県内初の社団法人「上秋津愛郷会」が設立されました。
 村有財産すべてを地区区民に復帰するという、全国にみても画期的な試みを実現し、公益法人として運営に努力を重ね、行政の補助金ばかりに頼らない自主財源による地域づくりがすすめられてきました。
 愛郷会の設立は上秋津の地域づくりの方向性を決めた大きな第一歩であり地域住民には、この時代から自治・共同体の意識が根付ようになり、住民がふるさとへの誇りや自信をもちはじめるきっかけともなりました。
 その後も地域を揺るがす、温州ミカンの大暴落や生産過剰、産地間競争の激化など、地域農業に危機的な状況に陥ったときでも地域を挙げて乗り越えてきました。

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地域づくりの背景

 上秋津地区の地域づくりの背景にあるのは主に上秋津地区の主要産業である農業の衰退と、急激な人口増加による地域の変化でもありました。上秋津地区は、江戸時代の金柑作りから始まり、明治22年に起こった地域が崩壊するような大水害を機に、山の斜面を利用した柑橘作りが本格的になり地域を支える産業へと発展していきました。
上秋津の特産である温州ミカン 昭和30年代になり、山を開墾し温州ミカンをうえつけていきました。昭和40年代以降の産地間競争が激化、昭和42年と47年にはミカン価格の大暴落となり地域経済は冷え込んでしまいました。こういった危機に若手農業者が立ち上がり、柑橘の優良品種の導入を積極的に始め、品種によるリスク分散を行うと同時に周年収穫体制整えて農業危機を乗り越えてきました。また、みかんと並び、和歌山県を代表する特産品でもある南高梅の栽培も盛んであり、今では、柑橘んと梅の複合経営が主流となっている。しかし、これまで農業が地域を支えてきた上秋津でも、今後農家の収入は年々減少すると見られており、地域農業が直面する課題には、傾斜地が多く土地が狭いなど耕作地条件が悪いことや、農業従事者の高齢化と若い担い手不足、特に農産物価格の低迷は農業を基軸に据え歩んできた地域であるために、農業が衰退すれば、地域も衰退してしまうという危機感が募っていた
混住化する上秋津地域 地域づくりのもう一つの大きなきっかけは、平成に入ってからの急激な人口増加である。昭和31年から昭和60年には、540戸から600戸程度の増加であったが、平成15年には1013戸、現在は1150戸にまで急増した。自然環境、住環境、交通の利便のよさから、隣接する町村、田辺市街地から人口が流入したのである。それに伴って顕在化してきたのが、農家の宅地化による新・旧住民間のトラブルであった。新しく移り住んできた住民のほとんどは非農家であり、住民同士のコミュニケーション不足や、宅地隣での農作業や排水に関する問題、地域にある文化継承への負担金支払い等、今までの農村では起こりえなかった諸問題が急激に起こり始めた。農村のあり方の問題が問われる時代がやってきました。

秋津野塾の結成

地域に起こる様々な課題解決と地域づくりの迅速な推進を図っていこうと、平成6年9月に「都会にはない香り高い農村文化社会」を実現し、「活力とうるおいのある郷土」を作ろう。そうした理念と目標を掲げて秋津野塾は設立されました。町内会、上秋津女性の会、老人会、公民館、消防団、小中学校の育友会・PTA、商工会、など 24団体が加盟してます。そして、11の区と55班が参画する。つまり地域に あるすべての団体が名前を連ね、タテ・ヨコに統合された組織が秋津野塾であり、大きなの特色でもあります。
 秋津野塾は、「地域づくり塾」で ある。環境、健康、 福祉、教育、 防災、農業、 地域社会には、いろいろな 課題がある。 そ うした課題について、住民がみずから考えてひとつひとつ解決し、快適で安全で、健康に安心して暮らせる、 生き生きした地域コ ミュニティを作 っていくことを目的としている。
 秋津野塾のもうひとつの特色は、「地区全住民の幅広い合意形成」をはか っていく場である、ということである。上秋津では、塾が結成される以前から、むらづくり活動を展開してきた。何か事業をおこなう、生活課題の解決に取り組む、そういうときは、 そのつど組織をつくって話 し合い、ものごとを決めてきた。

秋津野塾組織図
 

 地域における問題は、 年々多様化し、 複雑化する傾向 がある。また、 新しい住民の増加は、それだけいろいろな価値観を有するひとたちが、同じ地域 内に暮らすことになる。多くの住民 の幅広い合意を得ながら、地域づくりを総合的に有機的、機動的に進めていくには、多くの団体の意思が反映する組織が必要だ、と秋津野塾は考えたのである。端的に言えば 、“場当たり的”に陥りやすい、従来型の「決定システム」からの脱却を意味した。
 地域が取り組む事業や活動は、秋津野塾の企画委員会で企画・立案され、必要に応じて各団体の代表が出席する全体会議で検討し承認する。それによってものごとにすぐに対応できる体制になっている。地域に住む住民が問題を幅広く共有し、住民ひとりひとりが一地区一団体の住民であるととも に「地域住民」で あるとい う自覚を深める。 各団体が連携しながら、「地域力」を高めていこうとするところに、秋津野塾の特色がある。
 地域にかかわるひとたちに共通しているのは、自立し、パートナーとして連携共同する姿であります。秋津野塾の三つ目の特色が、地域における諸問題の解決や、地域の未来は住民が決めるのだという姿勢であり、いたずらに 行政をあてにするのではなく、住民ができることは住民がする。必要に応じて、行政の支援・協力を仰ぐ。最初から行政や補助金に頼らない地域の姿勢こそが上秋津の地域づくりの特徴でもあります。

(秋津野塾は、平成26年、設立20年を機に新しい組織体制となりました)
新・秋津野塾組織図

天皇杯の受賞で地域に誇り

豊かな村づくり 天皇杯受賞 これまでの地域づくりが評価され、上秋津地区は、平成8年度農林水産省主催の農林水産者表彰事業「豊かなむらづくり部門」において、天皇杯を受賞した。この表彰事業は昭和54年に、「農山漁村におけるむらづくりの優良事例の表彰を行うとともに、あわせてその業績発表等を行うことにより、むらづくりの全国的な展開を助長し、もっと地域ぐるみの連帯感の醸成及びコミュニティ機能の強化を図り、農林漁業及び農山漁村の健全な発展に資すること」を目的に制定されたものである。全国8ブロックで規定された数の地区に表彰を行い、その中でも特に優れた地区に「天皇杯」が贈られる。上秋津地区は近畿初の天皇杯受賞であった。
 天皇杯受賞は地域の大きな自信とやる気につながり、ますます地域づくりの動きが活発になった。また、全国からの地域づくり視察や、大学の地域づくり学習の受け入れ等、さまざまな人々が秋津野を訪れるようになり、同時に全国から新しい情報も入れ始め、新たな地域づくりのヒントも得られるようになった。外からの「評価」は、内からの「愛着」を増し、地域住民同士のつながりを生み出したのである。

マスタープラン策定事業

 秋津野塾未来への挑戦天皇杯受賞後も、直売所の開業、高尾山登山マラソン大会などのイベントの開催など、ガムシャラに地域づくりを推進してきましたが、4年経って、後継者問題、混住化問題、経済問題等の課題が再び見えてきた。そこで、故郷の地域づくりをいま一度原点に立ち返って考えようということで、平成11年から14年にかけて、これまでの事業の検証と、10年後の秋津野を見据えた計画を秋津野塾と和歌山大学との共同作業で実施した。
 平成14年10月に完成した『上秋津マスタープラン(素案)及びマスタープラン策定基礎調査報告』(以下『マスタープラン』と呼ぶ)は、「地域社会の構造と意思決定システム」、「土地管理の現状と今後の土地利用」、「地域農業の活性化と地域資源の活用」に関して、全世帯にアンケート調査を行いました。
 行政では出来ないこれほどの調査を、地域住民主体でこれほどまでに徹底した調査を行ったことは全国的に見ても画期的なことであり、全住民の声を直接聞いたという意味で、大いに意義のあることである。やもすると地域づくりにおいて意思決定がなされるときに、声の大きい人、流暢に意見を述べる人たちに意思が流されがちになることもあるかもしれませんが、このマスタープラン策定事業では声の小さい方の意識や意見、小学生からご老人までの意見も集約できた。
 この調査結果から、マスタープランを導き、今後、地域に本当に何が必要なのかを確認し、これが地域づくり手法の転機となた。



(秋津野マスタープランを住民に解りやすく説いた秋津野塾未来への挑戦は上秋津地域全戸に配布されました)


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